不良債権とは

 不良債権の問題は、不良債務という問題からも捉え直す必要がある。
 経済的事象には、名目的な表現と実質的な表現がある。名目的な表現とは、外形的な表現である。それに対し、実質的というのは、内容的な表現である。
 名目的価値は、固定的、あるいは、不変的な絶対額として表現される。それに対し、実質的というのは、流動的、あるいは、変動的な相対額として表現される。つまり、名目的価値は、唯一なものであり、実質的価値は、多様なものとな
 不良債権というのは、資産と負債の名目的な価値と実質的価値が乖離している状態によって引き起こされるのである。つまり、不良債権というのは、債権者から見た場合であり、債務者から見ると不良債務を意味するのであ
 債権は、資産を形成し、債務は、負債を構成する。不良債権を分析する場合、資産の構造と負債の構造を分析する必要がある。
 資産の名目的価値は、取得原価である。そして、実質的価値は、時価である。また、資産は、資金を調達した時点で名目的価値によって担保される。
 実質的価値は、基本的には時価を指す。しかし、時価と言ってもいろいろある。一つは、市価である。市場で実際に取り引きされている価格である。実際に市場で取り引きされていると言っても時間や場所によって市場価格は絶えず変化している。第二に、清算価値である。第三に、更新価値である。第四に、仕入れ原価である。第五に、販売価値である。第六に、路線価のような法定価値である。そして、何れも認識の時点に影響されて計算方法が違ってく
 どの値を選択するかは、認識の目的と前提に基づいて、当事者間の合意によって決まるのである。
 この資産に対応するのが、負債、あるいは、資本である。負債の名目的価値は、元本である。そして、実質的価値は、返済額である。返済額は、返済総額と実際の返済計画の二つがある。また、資本の実質的価値は、株価と配当を合算したものである。しかし、実際には、株価と配当は区分して計られ
 名目的価値が実質的価値を上回っている場合、未実現利益、含み益がある。それに対し、名目的価値を実質的価値が上回ると未実現損失、つまり含み損が発生する。含み損がある資産を不良債権というのであ
 どの様な状況を前提とするかによって採るべき政策は、制約される。
 市場が拡大し、経済が成長している状況では、実質的価値は、名目的価値を上回って表現される。それに対して、市場が収縮し、経済が成熟してくると実質的価値は、名目価値に対し、基本的に下回って表現され
 会計上は、名目的表現を原則としている。それに対し、資金の流れは、実質的表現を重んじる。
 資産は、会計上、名目的に表現されるが、資金的には、実質的な計測される。即ち、担保価値を基礎として測られる。それに対して、負債は、原則、名目的価値と実質的価値が一体である。
 負債の構造は、元本と金利となり、返済額は、元本の部分と金利の部分から成る。ただし、元本の部分の返済額は、貸借上も損益上も現れない。資産価値は、貸借上も損益上も名目的な価値しか、本来、表現されない。そして、資金は、資産は、実質的部分を、負債は名目的な部分を基礎としてい
 これが前提である。
 不良債権で問題になるのは、負債で言えば、元本の部分であり、資産で言えば、担保の部分なのである。
 市場が拡大すると元本の部分が拡大するから、調達力が高まり、一転して市場が縮小すると元本の部分が圧縮され、返済圧力が高まる。
 しかも、資金の調達力は、資産の担保力を裏付けとしているために、市場が拡大し始めても資産の担保力が回復しないかぎり、新たな資金調達は阻害されることになるのである。また、銀行は、貸し渋っているのではなく。担保に基礎を置いている限り、貸したくても貸せない状況に陥るのである。この場合、収益に基準をおいて事業を捉え直す必要がある。つまり、担保還元方式から収益還元方式に基準を変える必要があるのであ

 重要なのは、前提が変わっていることである。資金を調達した時点において何を前提としたかである。本来、事業は、事業収益を前提として資金を調達している。故に、貸借は、名目的価値を前提として取引が成立するのである。状況が変化したからと言って名目的基準を実質的基準に切り替えるのは、ルール違反であ

 先ず収益を確保できるようにするのが先決である。次ぎに、資金の流れを見る。指して長期的展望に立って事業観を確立する必要があるのである。その事業観基づいて長期的に資産価値を見直す必要があ
 事業は、本来継続を旨とし、長期的均衡を前提としている。それに対し、目先の収益や資産価値をもって事業の価値を推し量ろうとすることに無理があるのである。肝心なのは、事業目的であり、社会的機能、役割である。その点を考慮し、適切な方策を講じることが金融機関や行政に求められるのであ




                    


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