何が、土地や株価の下落を招くのか


 リーマンブラザースの破綻に端を発した金融危機は、なかなか、底が見えてこない。経済状態は、泥沼の様相を呈してきた。
 日本のバブル崩壊の際と同じように、株価と地価の下落に歯止めがかからず。それが経済の先行きに暗い影を投げかけているのである。
 何が原因で、土地や株価の下落を招いているのか。また、なぜ、地価や株価は上昇に転じないのか。その原因を明らかにすることが、金融危機脱出の鍵を握っていると私は思う。

 では、何が、地価や株の下落を招くのか。

 一つは、不良債権の処理が考えられる。皮肉なことであるが、不良債権を処理すれば、地価や株価が下がって不良債権が増える。何をもって不良債権とするのか。それは、簿価に対し時価が低い場合である。しかし、簿価と時価との差は何を意味するのか。それは、未実現損益と担保価値の増減を意味している。
 未実現損益も担保価値の増減も直接期間損益には関係ない。未実現利益や担保価値の増減が直接影響する要素があるとしたらそれは、資金調達力と支払い能力である。つまり、本来、未実現損益も担保価値も損益上に顕在化しない数値である。損益上に顕在化しないのに、資金調達や支払い能力に潜在的に働いている。それが厄介なのである。つまり、表面に現れないけれど、企業の死命を制する資金に直接的な作用を及ぼしている。それが未実現損益と担保価値なのである。
 第二点は、負債の返済圧力である。負債から派生する支出には、金利支払いと元本の返済がある。負債による返済圧力は、主として元本の返済による。金利は、費用として認識されるが、元本は、負債の減少でしかないからである。不良債権が発生すると銀行は、資金の回収を計るようになる。
 その回収の対象となる部分は、元本にあたる部分である。この返済金額は、損益上に現れてこない。つまり、収益や利益には直接かかわらないのである。
 しかし、資金繰りや与信力を極端に悪化させる原因となる。それが、土地や債権に対する新たな投資を抑制することになるのである。また、資金繰りの悪化は、手持ちの不動産や債権を売って資金を調達しようとするために、不動産や債権にとっては売り圧力となる。
 第三に、資本、純資産の劣化による圧力である。銀行の株式時価総額は、バブル期130兆円にまで達していたが、その後一時、10兆円まで低下した。また、同様に株式市場における時価総額の銀行シェアも20%強から6%まで下落した。(「銀行 第2版」野崎浩成著 日経文庫)純資産の劣化は、資金調達力の弱体を意味する。銀行以外の企業では、与信力の低下でもある。資金力が低下すれば必然的に資産に対する売り圧力になる。
 
 資産、負債、資本、収益、費用の中で一番固い数字は、負債なのである。つまり、負債を梃子にして会計制度は成り立っているとも言える。
 問題は、負債、債務の数字が固いのに対して、資産、債権の数字が流動的だという事である。その債権の動きに合わせて、純資産、資本も伸縮してしまう。資産の動きが負債に対して正の動きをする場合は、景気や企業に対して上向きの圧力として働くが、一旦負の働きに転じると景気や企業活動に対して負の働き、下向きの圧力として作用するようになる。
 また、資産が負債に対して正の働きをする場合は、債権の超過分は信用力の余力となるから、基本的には、企業活動には正の働きをする。しかし、一旦、資産が負債に対して負の働きに転じた場合、債務の超過分を補填する事が容易でないために、それが企業活動や景気にも負荷となって成長や資産価値の上昇を妨げることとなる。
 例えは、資産が負債に対して正の働きをしている場合でも、それが、過度で急激な働きである場合は、反動による危険性があり無条件に歓迎するわけにはいかない。

 俗に言う不良債権は、銀行側からみると不良貸出を意味する。借り手側からみると債権の劣化から生じる不良債務をも意味する。つまり、資産価値の下落によって債務負担が過剰になり、銀行の貸出資産の劣化する事を意味する。この仕組み、構造を理解しないと金融危機の本質は理解されない。

 問題は、貸出先とその貸出の保証である。所謂バブルによる金融危機は、この貸出先に問題があるのである。つまり、バブルを引き起こした元凶は、不動産や株式に対する投資資金なのである。投資が投機に変質したことによるのである。
 これらの投資は、レパレッジ効果によって本来の資金や担保価値を何倍、何十倍にも膨らませてものなのである。
 なぜ、この様なことになったのか。その第一の原因は、銀行にとって優良な貸出先が見いだせなくなったことが第一の原因となる。つまり、実物市場に対する貸出が減退した為に、金融技術を発達させて金融市場や資本市場、不動産市場に新しい貸出先を開拓したのである。金融技術は、資産価値を何重にも膨張させることを意味する。
 膨張させた資産価値は、裏付けに乏しい為に、一度崩壊すると回収することが不可能になる。その分のツケを実体経済に廻すことによって実体経済が崩壊する。それが金融危機の構図である。

 銀行に資本を直接注入する事は、劣化した資産を下支えをする効果はある。しかし、それが債務の圧縮に繋がるわけではない。負債が圧縮されずに、資産が収縮されるから金融機関は、貸出業務に支障が生じるのである。つまり、資金の供出が出来なくなるのである。
 資本を注入しただけでは、資産が収縮した部分を補填することは出来てもそれを資金の供給、信用の創造、即ち、貸出に結び付けることは出来ない。
 銀行の債務は、基本的に預金である。預金は、不特定多数からの預り金である。この様な性格の預金を単純に圧縮することは、基本的に不可能である。しかも、これらの預り金は、常に、取り付け、引き出しの対象である。無理をすれば取り付け騒ぎを引き起こす原因となる。つまり、債務を圧縮することは不可能である。
 根本的に銀行の財務内容、貸借対照表を綺麗にするためには、劣化した資産を修復する以外にないのである。
 その為には、いかに優良な貸出先を創出するかにかかっている。しかし、元来、優良な貸出先が減ったから、所謂、投機筋に資金を大量に供与したのである。投機筋への貸出が焦げ付いたからと言って、おいそれと、優良な貸出先が見つかるという保証はないのである。

 金融機関は、資金を集めてそれを運用することが基本的な機能である。言い換えると資金運用は、金融機関の宿命みたいなものである。その為には、一定の貸出残高を維持することが必要条件となる。返されては困る借金があるのである。それを無理に回収しようとすれば、信用制度を土台から破壊してしまう。特に、レバレッジを前提とした市場において強引な資金の回収を強行することは、金融市場にとって自殺行為である。この点をよく考えて市場の仕組みを構築する必要がある。
 その基本的機能が恒常的な仕組みの中に組み込まれてこそ金融危機は、回避されるようになるのである。




                    


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