志を同じくして一致団結したら大業を成す事ができるという卦である。
ただ、私利私欲によって行動したり、独断専行をすれば足下が掬われる。
自分の志や信念を熱く語り、人心をまとめる事が出来たら、事は成就する。
何よりも信頼関係が肝心なのである。
俺が俺がと、お山の大将になると失敗する。私心を捨て広く人と交わる事が大切である。
肉親や親しいものだけに偏ると信頼を失う。
同人(どうじん)は六十四卦の第13番目の卦。内卦(下)が離、外卦(上)が乾で構成される。通称「天火同人」。同人は「人を同じくす」であり、同は会同・協同の意味である。序卦伝には物は塞がるばかりではないので否の次に置かれるという。
上卦の乾が天。下卦の離が火を意味する。
従順な六にと剛毅な九五が応じる。志を同じくする者が野に集いて順調に事が運ぶさまを表している。
下卦の離が、光明、知性であり、上卦の乾が剛毅、実行力である。
六二と九五は中を正とし相互に長所を発揮する。
指導者は小異を捨てて、大同を求め断固たる信念をもって事に中れば大業を成す事ができる。
同人于野。亨。利渉大川。利君子貞。
初九、同人于門。无咎。
六二、同人于宗。吝。
九三、伏戎于莽、升其高陵。三歳不興。
九四、乗其墉、弗克攻。吉。
九五、同人、先号咷而後笑。大師克相遇。
上九、同人于郊。无悔。
各爻解義
人に同じうするに、野においてす。亨(とお)る。大川を渉(わたる)に利(よ)ろし。君子の貞に利ろし。
天火同人の時は、志を同じくする者同士が正々堂々と公明正大に、皆と仲良くして進む時である。たとえば、共同事業などをやる好機である。
しかし、私利私欲の固まりのような人間では、折角のチャンスを活かしきれない。人生意気に感ず。本当に腹を割れるよう な相手と手を結ぶことが鍵を握っている。
初九、門戸を開放して同志を迎えれば文句は無い。
六二、同志を集めたのは良いが、とかく親しい者同志となる。うまくない。
九三、野心を起こして、伏兵を設けるような奸計をめぐらすが、中々望み通りにゆかぬ。遂行しようとしてはいけない。
九四、覇権を狙うが、駄目である。困(くる)しんで則に反れば良い。
九五、同人の首班である。後を狙う者の為に苦労するが、下の応爻である六二の賢士と心を合わせてゆけば、いかなる妨害をも排除して、相見て笑えるようになる。二人心を同じうすれば、その利(と)きこと金をも断つ。同心の言はその香り蘭の如きものがある。
上九、功成って現役を去れば、郊に遊ぶようなものである。人々は都内に集まって忙しい。訪ねてくる者も少ないが、優游自適しつつ尚も志を失わねば悔いることは無い。
初爻の之卦は、天山遯(てんざんとん)。
二爻の之卦は、乾為天(けんいてん)。
三爻の之卦は、天雷无妄(てんらいむぼう)。
四爻の之卦は、風火家人(ふうかかじん)。
五爻の之卦は、離為火(りいか)。
上爻の之卦は、沢火革(たくかかく)。
互卦は、天風姤。(てんぷうこう)
錯卦は、地水師。 ( ちすいし )
綜卦は、火天大有 。 ( かてんたいゆう )
経 営
太極から陰陽が生じる。
太極は一、陰陽は二。
取引から売り買いが生じる。
取引から貸し借りが生じる。
取引は一、売り買いは二。
取引は一、貸し借りは二。
経営の陰陽は、常に反転して卦を作る。
増収増益、減収増益、増収減益、減収減益の経営の四象の卦を作る。
経営の四象が経営の卦のすべてを支配している。
経営の四象は、物流の錯卦である。
金が出る時、物が入り。物が入る時、金が出る。
表面の卦の裏に、実物の卦が隠されている。
裏の卦にこそ実があり、表の卦は、虚である。
上卦の乾。下卦の離から成る。
経営の相から見ると、
乾は、利益、売上、総資本、全てが陽となる。
先ず増収増益の相である。
離は、営業キャッシュフローと財務キャッシュフローが陽で投資キャッシュフローが陰となり。
天火同人の卦が出た時が、始生、則、創業期ならば初九の卦に従い、広く門戸を開き志を同じくする人たちと手を携えていけば軌道になる。
事業を起こすならば広く出社を募り、支援者の話をよく聞いて経営すれば間違いがない。
初爻の之卦は、天山遯(てんざんとん)。
初爻の之卦は、天山遯(てんざんとん)。
遯。亨。小利貞。(とんはとおる。しょうはていによろし。)
天山遯の初爻は、遯尾厲。勿用有攸往。逃げ遅れてしまい、危うい。進んではならない。
天火同人の卦が、天山遯(てんざんとん)に変わったら見極めを付ける必要がある。思うように資金が集まらないようだったら、例え、収益や利益が上がっていたとしても撤退する事を考えるべきである。目先の利益に囚われると失敗をする。
漸盛の時なら、六二の卦に従えば、同族だけで固めるのではなく。広く人材を求め、また、上場を目指すべし。
親しい者、身内だけで固めるとうまくいかなくなる。
二爻の之卦は、乾為天(けんいてん)。
二爻の之卦は、乾為天(けんいてん)。
乾。元亨利貞。(けんはおおいにとおる。ていによろし。)
乾為天の二爻は、見龍在田。利見大人。(けんりゅうでんにあり。たいじんをみるによろし。)とある。
天火同人の後に乾為天の相が表れるのは、投資が完了し、その投資自体から何らかの収入を得られている場合である。表舞台にいよいよ立たされた時で、見識のある人の意見を聞く事が大切である。傲慢になって独善的になる事だけは避けなければならない。とにかく信頼のおける人の意見に耳を傾ける事である。
旺盛の段階なら、九三の卦による。増収、増益だからと言って図に乗っていろいろな事に手を広げてもうまくいかない。事業が順調だからと言って本業を疎かにすべきではない。
野心をもっていろいろな策を講じてもうまくいかない。無理押しすべき時ではない。身の程知らずの野心は失敗の元である。
三爻の之卦は、天雷无妄(てんらいむぼう)。
三爻の之卦は、天雷无妄(てんらいむぼう)。
无妄。元亨利貞。其匪正有〓。不利有攸往。 (むもうはおおいにとおるていによろし。それせいにあらざればわざわいあり。ゆくところあるによろしからず。)
天雷无妄の三爻は、无妄之災。或繋之牛。行人之得。邑人之災。(むもうのわざわい。あるいはこれにうしをつなぐ。こうじんのうるは。ゆうじんのわざわ
い。)
天雷无妄 の時の災いとは、ある人が牛をつないでいたら、通りがかりの者が盗んで連れていったようなものだ。村人が疑われて大迷惑しているような事である。
営業キャッシュフローが天火同人から陰に転じた状態で、外見は、増収増益だがキャッシュフローが悪化しているため、思わぬ災難で足をすくわれる危険性があることを示唆している。営業キャッシュフローが悪化した原因を確かめる必要がある。
盛極の時なら、九四の卦に従うと、今、やろうとして いる事業は力量を超えている。あまり高望みをしない事が無難である。深追いせず諦めるのも一計である。
また、手広く事業の手を開き、市場を独占しようとするとかえって危うい。自分のできる範囲内で慎重に事を進めけるべきなのである。
四爻の之卦は、風火家人(ふうかかじん)。
四爻の之卦は、風火家人(ふうかかじん)。
家人。利女貞。(かじんはじょのていによろし。)
風火家人(ふうかかじん)の四爻は、富家。大吉。(いえをとます。だいきち。)
天火同人の卦の後に風火家人の相が表れるのは、借入金の返済や不良債権などの処理が進み財務体質が改善されたことを示唆している。
始衰の時なら、九五の卦を見てとると、滞っていた難問がやっと解決する時であり。積極的に仕掛ける時。苦労をしても苦労を分かち合う仲間と後々笑いあえる時が来る。
九五の之卦は離為火(りいか)。
五爻の之卦は、離為火(りいか)。
離。利貞。亨。畜牝牛吉。(りはていによろし。とおる。ひんぎゅうをやしなえばきち。)
正道に順えば道は開ける。
離為火の五爻は、出涕沱若。戚嗟若。吉。(なみだをいだしてだじゃく。いたみてさじゃく。きち。)
涙がとめどもなく流れ心が傷つき、憂い嘆く。今は危うい時であるこ とを知り、身を慎めば吉
離為火は、増収減益の相である。
収益は順調に伸びてきているが利益に陰りが出ている相である。
焦らずに正道を歩めば先が見えてくる。
転復の時を迎えたら、上九の卦に従い無理は禁物、退く方が無難である。
ただ内に変革の志を持っていよう。
なぜならば、上爻の之卦は、沢火革(たくかかく)であり。沢火革は、変革、革命の卦だからである。
上爻の之卦は、沢火革(たくかかく)。
革。巳日乃孚。元亨利貞。悔亡。(かくはおわるひにしてすなわちまことす。おおいにとおるていによろし。くいほろぶ。)
改める時。変革の時である。
沢火革の上爻は、君子豹変。小人革面。征凶。居貞吉。(くんしひょうへんす。しょうじんめんをあらたむ。ゆけばきょう。ていにおればきち。)
君子は豹のように美しく変わる。小人は表面だけ変わったように見せかける。さらに進めば凶。貞正を守れば吉
沢火革は、増益減収の相である。
即ち、成長が縮小している時にもかかわらず収益が出ている相である。市場が収縮しているか成長が鈍化している時に一時的に利益が上がっている可能性がある。放置すれば、利益にも影響が出てじり貧状態になる危険性がある。粉飾などによって上辺だけを取り繕うのではなく、根本的な改革が必要である。
利益が出ているうちに思い切った変革をすべきなのである。
二爻の相も、陰で位をとる。
三爻の相は、陽で位をとる。
四爻の相は、陽で位をとる。
五爻の相は、陽で位から外れる。
次に、初爻と四爻の関係をみる。
総資本が増加するのは、増資によるか、負債の増加による。
二爻と五爻は、中爻である。二爻は、投資を表し。五爻は収益を表す。投資の結果が収益に反映しているかどうかを見る。二爻の投資を五爻の収益でしっかり応じている形である。
天火同人の卦では、二爻と五爻は、しっかりと応じている。
三爻と上爻の関係を見る。
三爻と上爻の関係は、営業キャッシュフローが利益に反映している。
営業キャッシュフローと利益の差は、主として償却と利益の差である。
償却と利益の関係を見る。
互卦は、天風姤。(てんぷうこう)
錯卦は、地水師。 ( ちすいし )
錯卦は、物の動きを表す。
同時に、錯卦は、残高の働きをも意味する。
綜卦は、火天大有 。 ( かてんたいゆう )
大有。元亨。
日が天にあってすべてが順調だという卦である。
減収増益となり、利益を減収に乗せる形となる。
天火同人の相は、増収増収の勢いに乗って投資をしている相である。
投資を控えると天風姤(てんぷうこう)、火天大有 ( かてんたいゆう )等の相が表れてくる。
参考 Wikipedia
「易学入門」 安岡正篤著 明徳出版社
「まんが易経入門」周 春才著 鈴木 博訳 医道の日本社
「易経」 小田全宏著 PHP社