財政、会計、家計

 経済には、人的経済と物的経済、金銭的経済がある。経済を構成する要素は、家計と、企業と財政である。
 人的経済から見ると家計は、労働力を提供し、企業は、所得を分配し、財政は、所得の分配と再分配、失業対策、そして、分配の手段を提供することである。それらの要素を前提とした上で会計は、分配のための基準を設定する。
 物の経済から見ると家計は、財の購入と消費を担い。企業は、財の生産と販売。財政は、社会資本の整備を担う。
 貨幣的経済では、家計は、投資と貯蓄。企業は、設備投資と借入。財政は、貨幣の信用保証、貨幣の供給を担う。

 自由経済では、財の交換は、貨幣を媒体として市場を経由してなされる。貨幣は、所得という形で分配される。

 資本主義というのは、近代会計制度上において成立した思想である。故に、近代会計制度が理解できないと資本主義は理解できない。例えば、資本や利益、取引の持つ意味である。資本や利益は、きわめて会計的な概念なのである。資本も利益も会計的に定められた期間損益を前提とした概念なのである。そして、資本主義経済では、期間損益が経済現象の根本を成している

 思想という観点から言えば、現金主義に基づく経済体制と期間損益に基づく経済体制は、異質な経済体制である。この点をよく理解しておく必要がある。
 二十世紀に生起した多くの経済現象は、現金主義を基礎とした経済体制から期間損益を基礎とした経済体制への移行期に現れる現象だと言える。この点を理解しないと恐慌や戦争の持つ意味を理解するのは不可能である。
 そして、現代の経済体制は、現金主義と期間損益主義が混在する混合経済体制である。現金主義的部分は、財政と会計であり、期間損益主義的部分は企業である

 収益−費用=利益という方程式を我々は、当たり前のように受け容れている。しかし、この様な方程式が成り立ったのは、近代会計が確立された以後のことである。それ以前は、残高−支出+収入=残高である。つまり、利益ではなく、残高が問題だったのである。そして、儲けは、利益ではなく、残高−元金という式から導き出されたのである。つまり、収益や費用という概念はきわめて新しい概念なのである。

 会計制度は、通貨によって動いている仕組みである。資金は、会計制度の動力、エネルギーだといえる。エネルギーは力であって無形な働きである。
 通貨の力、即ち、資金力は、電力と言うよりも水力に似ている。水力発電機は、水の流れによって水力が生じ、発生した水力によって発電機を動かす機械である。
 水力によって動く機械や仕組みは、水の流れによる力によって動くのである。仕組みや機械の中に水がなかったり、水が静止している時は、水力は生じない。
 財務情報を視る時に注意しなければならないのは、財務諸表に表示されている数値は、実在する通貨の量を表してた数値ではないと言う点である。財務諸表に表示されている数値は、通貨が流れた痕跡に過ぎない。表示された数値だけの現金が用意されているわけではない。数値が指し示した対象の貨幣価値の水準を示した値に過ぎないのである。

 問題点の一つは、財政、会計、家計との間に制度的連続性がないという事である。当然制度的整合性もない。その為に、税制が折衷的な制度になっている。
 財政、会計、家計の間に制度的整合性がないと税の効果、即ち、税が会計や家計のどの部分にどの様な作用があるのかの因果関係が断ち切られてしまうことになる。さらにそれは、税制度が生産や消費の局面に対してどの様な影響があるのかを不明瞭にしてしまう。経済にたいする税制度の直接的な影響を、測定することがむずかしくなる。
 また、財政、会計、家計情報に整合性がないために互換性がないという事にもなる。

 現代の経済で問題になるのは、経済の専門家は、会計に詳しくなく。会計の専門家は、経済を知らないという事である。

 万能の施策などないのである。施策は、手段である。手段は、状況や目的、則ち、前提条件に応じて選ぶべきであり、あらゆる病に効く万能薬がないように、万能の施策はないのである。
 競争は、原理ではない。一つの手段である。しかも、前提に基づく手段の一つである。また、競争が成り立つのは、規則があっての上である。そして、規則とは、人為的な取り決めであって、規則間にある矛盾は、誤謬は取り除いて整合性をとるべきだが、所与の自然法則のような法則とは性格が違う。それを自明な法則と同一するのは間違いである。

 産業には、草創期、成長期、成熟期、停滞期、衰退期などの段階があり、各々の産業に相がある。その相を生み出すのは、産業の形である。
 草創期には、開発競争が起こり、なかなか収益には結びつかない。一旦、成長期になると市場の拡大よる収益の拡大が期待できるようになる。やがて、新規参入が増えて過当競争が起こり収益が低下する。成熟期になると企業の淘汰が進み、収益が採算ギリギリまで落ち込む。停滞期にはいると市場が、新規需要が見込めなくなり寡占独占状態に陥り、新規参入がむずかしくなる。
 草創期には、開発のための支援が欠かせない。また、自動車のように裾野の広い産業では、インフラストラクチャー、社会資本の整備が先行する必要がある。成長期には、資金需要が旺盛になる。成熟期には、競争を抑制し、共倒れするのを防ぐ必要がある。
 産業政策は、その時その時の個々の産業の状況に応じて個別に施されなければならない。

                    


ページの著作権は全て制作者の小谷野敬一郎に属しますので、 一切の無断転載を禁じます。
The Copyright of these webpages including all the tables, figures and pictures belongs the author, Keiichirou Koyano.Don't reproduce any copyright withiout permission of the author.Thanks.

Copyright(C) 2001 Keiichirou Koyano