負債の厳格な管理


 私の父が今年の4月に亡くなりました。享年90歳。

 私の父が若い頃は、度胸と運があれば一攫千金も夢ではなかった。
 私の父は、東京でガソリンスタンドを何十件か運営する会社の幹部をしていました。創業当時は、日本の高度成長時代に当たり、土地を買えば、確実に値上がりが見込め。マイカーブームの到来もあって収益も面白いように伸びてるいった。救済目的で購入し。当時は無謀だと言われたスタンドの土地も瞬く間の内に2倍、3培と値上がりし、最後には、10倍にも20倍にもなってのである。しかし、その時は、誰もそこに落とし穴があるなんて気がついていなかった。
 いくら地価が値上がりをしても収益に貢献するわけではない。第一売るわけにはいかない。売ったところで利益の過半は税金にもって行かれてしまうし、なんだかんだと経費を差し引くと手元に残る資金は、僅かなものである。
 高度成長にも陰りが見え、経済も成熟期にはいると先ず収益が頭打ちになり、それに対して費用の上昇が続くという現象として表れる。それが石油価格の高騰によって直撃を受けることになるが、それは、何とか経費の削減によって凌ぐことが出来た。
 ところが次ぎに来た急激な円高は、経費の削減だけでは追いつかずに資産の運用によって乗り切ろうとした。それは、結果的に負債の増大を招くのである。資産価値の急激な上昇は、実需をに基ずくものではなく。投機的なものである。その結果バブルの発生である。バブルが崩壊すると資産価値、負債との乖離が顕著となる。国は、それを不良債権処理として強引に処分させた。その結果、残されたのは、裏付けのない負債と負債が生み出すマネーの流れである。この裏付けのない負債が生み出す負の連鎖から今の日本は抜け出せないでいる。

 この現象は、いずれは世界中に拡がっていく危険性がある。

 財政は、期間損益に立脚していない。しかし、収益と費用の不均衡が引き起こす、これらの問題は財政にも言えることなのである。特に、法人税を含めた所得税に課税、基盤を置いている国に顕著に現れる。
 経費の削減は、裏返すと所得と雇用を減らすことであり、収益の減少は、法人税を圧迫する。
 税制上の日本の赤字法人は、戦後ずっと右肩上がりで増え続け現在は七割までに達している。

 ちなみに、日本の経済成長によって生み出された廉価な商品は、洪水のように欧米の市場に流れこみ。欧米企業の収益を圧迫し、市場の規律を喪失させた。その結果、アメリカは、資産の運用によって収益の減少を補って今日に至っている。

 市場を保護するというとすぐに関税を思い浮かべるが、大切なのは、市場の規律である。市場を保護するのは、関税ではない。公正な競争を実現しようとするならば、同じ条件の上で競わせるべきなのである。

 金融界の人間ばかりではなく。産業界、特に、コモディティと言われる産業界の指導者の意見にも耳を傾けるべきなのである。

 大事なのは、資産、費用、負債、収益の均衡なのである。
 経済を支えているのは、負の部分と正の部分の均衡である。そして、収益と費用の均衡である。
 収益が圧迫されたら簡単に経費の削減に言及する者がいる。しかし、物事はそれほど単純ではない。経費の削減は、所得と雇用の減少に繋がるのである。たださえ収益が落ち込んでいるときに、所得や雇用の減少を促せば、景気が悪くなるのは必然である。しかも投資にも跳ね返る。問題は収益の維持なのである。収益を維持しなければならない時に過当競争を促すのは、言っている事とやっていることが逆である。

 廉価ではなく。適正な価格である。
 効率ではなく、適正な分配である。
 大量生産ではなく、必要な物を必要なだけ生産することである。
 利益は、目的ではなく、指標に過ぎない。
 競争から協調へ、対立から助け合いへ、量から質への変化が求められているのである。

 大切なのは、負債の厳格な管理と市場の規律に基づく収益の維持である。
 そして、それが国家の務めなのである。




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