三面等価


 人類は、又一つ統計という万能の手段を発見した。そして、又、本質を見失うのである。
 情報処理能力の向上は、統計に対して絶大な力を発揮する。
 しかし、同時に、深刻な問題を引き起こす可能性も潜んでいる。
 統計学者が犯す過ちは、結果を全てだと思い違えることである。
 情報処理の鍵は、前提、或いは、前提となる仕組みや目的である。
 元々、情報処理は、合目的的手段なのである。目的を見失えば、本来の意味も失われる。

 統計情報が一番豊富で、情報処理の最新技術が最も威力を発揮するのは、会計である。なぜならば、会計は、数値情報記録の塊なのである。ところが、最も、経済問題に活用されていないのは、会計情報である。

 過去の経済政策は、統計的実験を積み重ねたようなものなのである。データは豊富にある。

 三面等価で言う、等しいとは、雇用者報酬と営業余剰、税収の和と消費と投資と、貯蓄の和、そして、人件費、地代・家賃、利潤、利子、減価償却費の和が等しいという事を意味する。
 そして、それを期間損益に結び付けると人件費は、雇用者報酬に、利子は、金融費用と負債に、地代・家賃は、固定資産に、減価償却費は、費用性資産に、利潤は、収益に対応する。
 なぜ、三面等価が成り立つのか。それは、市場に流れる一定期間の貨幣の量を生産、分配、支出の三つの局面で計測した値だからである。又、三面等価は、資金の流れる経路を示している。
 故に、三面等価を解析する場合は、資金の流れに及ぼす影響を読みとる必要がある。そして、市場に及ぼす影響と働きに応じて市場に流れる貨幣の適正な量と方向を調整するのが、経済政策の目的である。

 期間損益の働きを構成するのは、基本的に資産、費用、負債、収益である。
 資本、及び利益というのはあくまでも結果を表した数値である。総括的な結果を知るための指標として重要なのであり、経済に対する働きを知るためには、資産、費用、負債、収益の変化が重要なのである。
 そして、資金の流れを方向付ける根幹は、負債と費用である。負債は、長期的資金を流れを費用は、短気資金、即ち、消費を表している。資産は、長期的資金である負債を裏付け、収益は、短期的資金の流れである費用の原資となる。
 資金の流れる方向のうち長期的資金の流れを左右するのが負債であり、短期的資金の流れる方向を左右するのは、費用である。長期的資金とは、長期的な分配を短期的資金は、短期的分配を意味しているのである。
 負債と費用こそ経済に対して重要な働きをしているのである。

 基本的には、試算表が再現できればいいのである。試算表の中で、資産や費用、負債、収益がどの程度占め、或いは、変動したかを解明すればいい。

 重要なのは、経済を維持できるだけの費用が確保されるかである。
 負債や費用を否定的にとらえているかぎりその答えは得られない。

 費用というのは、社会全体で捉える必要がある。そして、費用の根底にある基準は必要性であることを覚えておかなければならない。
 問題なのは、必要な物を生産するのに必要な費用だけでは、労働者、全員の所得を賄えないのである。だから余計な仕事を作らなければならない。当然余計な支出が生じるのである。しかし、その支出は必要な支出なのである。問題はその比率である。

 雇用を創出するのは、貨幣が流れる領域である。
 景気対策の問題は、貨幣をどこに、どれだけ、どの様に流すかの問題なのである。

 結局、重要なのは、通貨の流れる範囲と量である。
 損益と貸借を合算したものなのである。その点を十分に理解すれば産業界で何が起こっているかの予測をつける事は可能である。
 もう一つ重要なのはキャッシュフローである。
 その後は、統計の出番である。

 公共事業の効果や金利政策、規制緩和、報復的処置、為替の動向、原油や農産物価格の動向、株式相場の変動、地価の変動等を資産、費用、収益、負債と結び付けて解析するためのデータはふんだんにある。それも産業別や地域別に分類することも可能なのである。
 それなのに、情報量も情報処理能力も低かった時代の統計の古典的手法に拘って会計情報を有効に使おうとしない。馬鹿げたことである。会計情報を直接、経済政策に反映させるべきなのである。

 貨幣の流れは、生産、分配、消費へと流れる。物の流れも基本的には同じである。ただ時間的には、一段階ずつ遅れて流れる。
 先ず、貨幣が供給されることから始まる。資本主義経済は、貨幣、即ち、資金がなければ始まらないのである。その資金を元手、元金と言う。元手、元金が資本を形成する。
 では、その元で、元金は、どこから調達するかというと借金、即ち、負債である。負債を辿っていくと公的債務になる。公的債務が貨幣の元なのである。
 公的債務も最初からあったわけではない。元々は、実物である。それが発展して実物貨幣となる。実物貨幣が兌換紙幣に転じ、兌換紙幣が不兌換紙幣に発展して今日の貨幣制度の礎が築かれたのである。
 また、所得も最初は生活に必要な物品や田地田畑を支給されたのが、実物に、それから実物貨幣へと変化してきた。
 いずれにしても、資本主義体制が確立される前提には、一定の実物貨幣が社会に供給されている必要がある。そして、不兌換制度では、負の部分が貨幣の量を規制する。即ち、一定の水準に公的債務の量を抑えることで、市場に流通する紙幣の量を調整するのである。
 公的債務が増大することは、流通する貨幣の流量を制御する事を難しくする。それが財政問題である。
 貨幣、即ち、資金が、生産的な部分へ供給され、分配、消費へと流れていく過程で資金は、各々の局面において長期的な投資と短期的な消費へと分離する。貨幣の流れる方向の逆方向に物は流れる。

 法人税は、極力、少なくすべきである。なぜならば、法人は公的機関であり、本来、私的所有物ではないからである。また、法人は、現金を貯蓄することが困難な構造となっている。結局、過剰な税は長期的資金に蓄積されてしまうのである。
 問題なのは、公と私が曖昧な部分である。公的機関としての企業の性格から見ても私的な所得と見なされる部分は課税されるべきである。






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