シニョレッジ


 財政問題は、収入と支出の不均衡の問題である。収益と費用の不均衡によるのではない。

 収入と支出とは、現金収入と現金支出を意味する。つまり貨幣の放出と回収である。財政の本質とは、この貨幣の放出と回収に他ならない。なぜ、貨幣を放出した上で回収しなければならないのかというと、貨幣の働きは、循環することによって発揮されるからである。そして、貨幣を回収しなければ、貨幣の量を制御できなくなるからである。

 貨幣価値は、無次元の量、即ち、自然数の集合である。
 故に、貨幣価値は、上限が確定されていないと無限に発散してしまう。
 紙幣の発行量は、貨幣価値の総量を制約する。
 財政問題の基本は、貨幣の流通量をいかに制御するかの問題である。貨幣の流通量を制御する仕組みは、貨幣の発行の仕組みと金融の仕組み、財政の仕組みからなる。金融の仕組みは、貨幣の循環の仕組みであり、財政の仕組みは、貨幣の放出と回収の仕組みである。
 貨幣の発行量が発散傾向を持つか、収束的傾向を持つかは、財政構造による。そして、その根本は、数学的問題である。
 貨幣の供給量に制限を加えるのが国債なのである。

 貨幣経済体制においては、貨幣の流通量と方向が経済的働きを決定している。そして、債権や債務は、資金の流れる方向に作用しているのである。

 市場や経済の規模に対して適切な量の貨幣が偏りなく供給される事が経済状態を安定させる条件となる。経済が不安定なる原因の一つには、市場規模や経済規模に比して過剰に貨幣が供給されたり、又、逆に貨幣の供給が途絶したり、又、偏りが生じるといった貨幣の供給の齟齬にある。

 市場の拡大や収縮に併せて貨幣の流通量は調節されなければならない。

 財政の健全さを分析するためには、収入と支出の問題は、一旦、切り離して考えるべきである。

 財政収入は、手段による制約を受ける。財政収入の手段は、資金を回収する仕組みによる。つまり、財政収入の問題は、回収する仕組みの問題である。
 回収する仕組みは税制と事業収入、そして、通貨発行益、即ち、シニョレッジ、株式発行益である。株式発行益は、国営事業を民営化する際に発生する。貨幣発行益は、公的債務と公的債権を形成する。通貨発行益(シニョレッジ)や株式発行益は一時的収入である。また、通貨発行益は、財政上に発生するとは限らない。通貨発行益は、通貨の発券機関に帰すからである。
 ただ、いずれにしても財政を立て直すためには、通貨発行益(シニョレッジ)や株式発行益の活用が鍵を握る。

 又、財政の健全さを保つためには、税制は、経済規模を捕捉できると同時に、経済の方向を調整できる仕組みが組み込まれた制度でなければならない。

 負債は、資金調達手段の一種である。長期負債と、短期負債とでは、働きや運用に違いがある。国債であれば、長期国債と短期国債は、目的によって区分される必要がある。

 表象貨幣の根源は、無期限の負債であり、紙幣の起源は、借用証書である。
 紙幣の発行によって、同量の公的債権と公的債務が発生する。即ち、貨幣の発行によって生じるのは、貨幣、公的債権、公的債務である。
 公的債権は、紙幣の正の働きを公的債務は、紙幣の負の働きを表現している。

 借金は、必ず返済しなければならないと言うのは思い込みである。国債のような、公的債務は必ずしも返済を前提としていない。なぜならば、公的債務の対極に公的債権があり、また、通貨量の上限を画定する働きが公的債務にあるからである。問題は、公的債務が無限に発散する場合である。
 これは企業経営にも言える。企業経営にとって負債は、障害ではない。ただ、問題は、収益が悪化した時に、長期的資金を回収されたりして資金が行き詰まる場合と際限なく負債が増殖する場合である。しかし、長期資金が回収されるのは、経営上の問題と言うより金融上の問題である。

 重要なのは、公的債権、公的債務と流通する資金の量が経済規模に適合しているかである。公的債務、公的債権、流通する通貨の量が不均衡になると物価の上昇を招いたり、財政破綻を引き起こしたりする。又、国債の量を抑制することができなくなる。その目安は、プライマリーバランスにある。

 企業経営においては、債権、債務に対する利益や金利の比率である。

 国債を清算する手段は、税や事業収益、株式発行益によって通貨を回収することである。貨幣を清算する手段は、負債の返済による通貨の回収である。
 国債の残高、財政収入と支出、貨幣の供給と回収、これらの均衡が保てなくなると国債は、際限なく発散する。

 財政支出は、財政の機能によって求められる。財政の機能とは、行政機能と所得の再分配機能、そして、社会資本に対する投資がある。
 故に、財政支出を構成するのは、所得の再分配の原資、公共投資、行政費用である。
 つまり、財政支出の問題は、第一に、直接所得と所得の再分配をどう結び付けるかの問題、第二に、再生産、再投資に結びつく社会資本かどうかの問題、第三に、行政支出(国防費、教育費を含む)の効率化の問題の三つの問題といえる。

 所得の再分配が問題になるのは、所得と再分配の原資が乖離している場合である。再分配に所得の変化を反映できないと直接所得と再分配が連動しなくなる。その為に、不景気になり、直接所得が減少しているにもかかわらず再分配のための原資が膨れあがるという現象が引き起こされる事象が生じるのである。

 又、公共投資の問題は公共投資が拡大再生産や再投資に結びついていない事が主たる要因である。既得権益との結びつき、また、公共投資が硬直化することも問題なのである。
 公共投資は、国家構想に基づき長期的展望に立ち、その年度その年度の景気の状態に併せて勘案されるべきものである。場当たり的な景気対策として活用すべきものではない。

 財政を悪化させるもう一つの原因は、行政支出が過大である場合である。
 特に国防費は、その上限を画定しにくい科目である。それは、国防費は、費用対効果の測定が難しい上に、何分にも相手がいることだからである。
 国防は、国防思想に基づくものであり、国防思想は、建国の理念から導かれるものであることを忘れてはならない。その上で軍事行動は、最も財政を破綻させる要因であることを念頭に置いておく必要がある。

 財政赤字が解りづらいのは、民間企業と違い、赤字が現金収支を本にしているからである。現金主義では、資金の長期的働きと短期的働きが区分できない。その為に、費用対効果が曖昧になるのである。
 財政における会計的問題は、長期資金と短期資金との切り分けがされていない事に一因がある。
 行政の費用対効果を測定するためには、行政支出の一部を期間損益主義に切り替えるのも一つの策である。
 財政の基本である現金主義と期間損益主義の違いは、現金主義が単年度均衡主義なのに対し、期間損益主義は、長期均衡主義である。故に、現金主義と期間損益主義の違いは、長期資金に対する扱いに端的に現れる。
 期間損益に切り替える目的は、長期資金と短期資金を切り離し、費用対効果を明らかにすることにある。当然最終的には、労働と分配を結び付けることに帰着する。つまり、利益という思想を公共事業に導入するのである。その手段の一つが民営化なのである。その目的なくして、何もかも民営化してしまえと言うのも乱暴である。要するに、民営化の効果は、事業の働きと目的によるのである。



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